甘い誘惑 



一人暮らしの私は、いまさらわざわざ飯を炊く必要も無いので、レンジで温めるだけでよい「ご飯パック」を主食にしているわけで、その分ちゃんとおかずは作っている訳ですが、その「ご飯パック」をまとめ買いするために、隣町の「食料品ディスカウントショップ」まで足を伸ばしました。さてそこの駐車場で見た物は、今流行の「焼きたてメロンパン」の移動販売車と、行列して買いあさるオバさんの列でした。確かに小雨の駐車場に漂う「甘い香り」には並んでまで買うだけの十分な魅力があると思います。実際並んで買っているオバさん達は、平均3個位はまとめて買っています。1個120円で一回の焼き上がりで5〜60個は売るようで、聞いてみると1日に2カ所ほど回って合計で1日で500〜700個位は売るという事でした。販売をしていたのは若い人で、もう儲かって儲かって笑いが止まらないって風情でした。
しかし、私はそれを見て素直には喜べませんでした。なぜならば、この仕事はこれまでの各種フランチャイズ制の商売と同じに、開業時に結構な資金が掛っているだけでなく、冷凍で本部から仕入れなければならない「メロンパン生地」など仕入れのいわゆる「縛り」の問題があるからです。実際、「メロンパン」にしろ「揚げたてコロッケ」にしろ、販売している本人は最終行程の「焼く」、「揚げる」の部分だけを担当しているだけで、機材や原料など全てを本部から買い入れているわけで、本人達は「独立して開業した」と胸を張りますが、その実態は「自前で営業機材を買って」くれた「歩合制の営業社員」だからです。
本人曰く、「すべて本部がやってくれて、なんにも考えなくてもすむからこの商売にしたんだ」、だそうです。しかしこれまでのこの手の商売と同じに、苦難の時はひたひたと迫ってきています。もともと、デパ地下での焼きたてメロンパンの評判をパクって始めたこの商売も、お約束の同業者の乱立により、急速に競争相手が増えていて、さらにインストアのショップでも同様の販売を始めたところも有り、顧客の物珍しさからの購買意欲も急速に低下しつつ有るのが現状だからです。すでにその販売車の来ている店の近くの別の店の駐車場にも、別の業者の販売車が週2回出店するようになるそうで、遠からずこのエリアも飽和状態になるのは明らかです。
これまでも、「焼き鳥屋」、「たこ焼きや」、「クレープ」などフランチャイズの移動販売は、ごく一部を除いて、小金を貯めた「独立希望の素人」さん達を草狩り場とするおいしい商売だったのですが、それでもこれらの商売は、多少なりとも熟練を要する仕事なわけで、それに比べると、最近の商売は「揚げる」「焼く」だけと簡単になっているのが特徴で、以前に比べると本部への依存度は大変高くなっている訳です。また本人にとって、その仕事を継続していくことによる経験上の蓄積が全く無いのが気になります。
都内で話を聞いた、中年の脱サラ「メロンパン」販売の人も、儲かったのでローンで高級車を買ったと言っていたし、「甘い誘惑」の乗って脱サラした彼らが、自身の「甘い誘惑」に負けずに、この商売が下火になる前に借金を返し終わる事を祈るばかりです。 

投稿日時: 月 - 6月 21, 2004 : 12:27 午前       前の記事:   次の記事:  


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